歴史

マルセイユ版

まるせいゆばん

マルセイユ版(マルセイユ・タロット)は15世紀以降ヨーロッパで広まった歴史的なタロットデッキです。木版画風のシンプルな絵柄が特徴です。

マルセイユ版タロットとは

マルセイユ版タロット(Tarot de Marseille)は、17〜18世紀のフランスで確立されたタロットデッキの伝統的な様式です。木版画風の素朴で力強いデザインが特徴で、現代のタロットデッキの原型となった歴史的に最も重要なデッキのひとつです。

その名前はフランスのマルセイユ地方に由来しますが、実際にはイタリア北部やフランス各地で制作されたデッキの総称です。マルセイユ版は、ライダー=ウェイト版トート・タロットが登場する以前の数百年間、ヨーロッパで最も広く使われたタロットのスタンダードでした。

現代でもマルセイユ版は、「タロットの原点に立ち返る」という実践者たちの間で根強い人気を保っています。小アルカナの数札にイラストがないため、数秘術四大元素の知識を駆使した読み方が求められ、直感力と象徴理解を鍛えるのに最適なデッキとされています。

歴史と起源

タロットカードの誕生(15世紀)

タロットカードの歴史は、15世紀イタリアに始まります。ヴィスコンティ=スフォルツァ版に代表される初期のタロットは、貴族の遊戯用として手描きで制作された豪華な一品物でした。これらのカードは「トリオンフィ(勝利のカード)」と呼ばれていました。

大量印刷と様式の確立(16〜17世紀)

印刷技術の発展により、16世紀にはタロットが大量生産されるようになりました。フランスでは木版画による印刷が主流となり、コストを下げつつも視覚的に力強いデザインが確立されました。この時期にマルセイユ版の基本的な図像が固まり始めました。

マルセイユ版の黄金時代(18世紀)

18世紀にはマルセイユがタロットカード製造の中心地となり、ニコラ・コンヴェル(1760年頃)をはじめとするカード職人たちが高品質なデッキを大量に制作しました。この時期のデッキが「マルセイユ版」の代名詞として定着しました。

代表的な歴史的版本:

版本年代特徴
ジャン・ノブレ版1659年現存する最古のマルセイユ型デッキのひとつ
ジャン・ドダル版1701年リヨンで制作。初期の典型
ジャン=ピエール・パイヤン版1713年アヴィニョンで制作
ニコラ・コンヴェル版1760年頃最も代表的。現代の復刻版の多くがこれに基づく

占いへの転用(18世紀後半)

18世紀後半、フランスのオカルティストたちがタロットを遊戯用から占いのツールへと転用しました。

  • クール・ド・ジェブラン(1781年): 『原初の世界』でタロットにエジプト起源説を唱え、タロットの神秘的地位を確立
  • エテイヤ(ジャン=バティスト・アリエット): タロット占いの技法を初めて体系的に文書化。マルセイユ版をベースとした占術を確立
  • エリファス・レヴィ(1856年): タロットとカバラを結びつけ、大アルカナとヘブライ文字の対応を提唱

近代以降の影響

19世紀末、ゴールデンドーンがマルセイユ版の象徴を発展させ、A.E.ウェイトはライダー=ウェイト版を制作する際にマルセイユ版を参考にしつつも、小アルカナの数札にイラストを追加するという革命的な変更を加えました。

20世紀後半には、映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーとフィリップ・カモワンによる「ジョドロフスキー=カモワン版」が制作され、マルセイユ版の復興運動が起こりました。

基本的な意味・定義

マルセイユ版タロットは、大アルカナ22枚と小アルカナ56枚の合計78枚で構成されます。

デザインの特徴

  • 大アルカナ: 寓意的な人物や場面が描かれるが、ライダー=ウェイト版と比べるとシンボルの描写がシンプル
  • 小アルカナ数札: 人物イラストがなく、スートのシンボル(棒、剣、杯、貨幣)が幾何学的に配置される
  • コートカード: 王(Roi)、女王(Reine)、騎士(Cavalier)、小姓(Valet)の4種
  • 色使い: 赤・青・黄・肌色を基調とした鮮やかな原色が特徴
  • フランス語の表記: カード名がフランス語で記される(例: LE BATELEUR, LA PAPESSE)

詳細解説

大アルカナの主要な違い(マルセイユ版 vs ライダー=ウェイト版)

番号マルセイユ版ライダー=ウェイト版主な違い
0LE MAT(愚者)The Fool基本的に同じ
ILE BATELEUR(手品師)The Magicianマルセイユ版はより大道芸人的
IILA PAPESSE(女教皇)The High Priestess基本的に同じ
VIIILA JUSTICE(正義)Strengthマルセイユ版では8番が正義
XILA FORCE(力)Justiceマルセイユ版では11番が力
XIII(名前なし)Deathマルセイユ版は名前が記されない
XVLE DIABLE(悪魔)The Devilデザインが大きく異なる
XXILE MONDE(世界)The World中央の人物の描写が異なる

小アルカナの読み方

マルセイユ版の小アルカナ数札にはイラストがないため、ライダー=ウェイト版のように「絵を見て読む」ことができません。代わりに以下の知識を組み合わせて解釈します。

  1. 数秘術の知識: 1〜10の数字が持つ普遍的な意味
  2. 四大元素の知識: 各スートの元素的性質
  3. カバラのセフィラ: 数字と生命の樹の対応
  4. 図像の読み取り: シンボルの配置パターンから情報を読む

例: 剣の5の解釈

  • 数字「5」= ゲブラー(峻厳)= 変化・葛藤・浄化
  • スート「剣」= 風 = 思考・コミュニケーション・葛藤
  • 総合: 知的な葛藤、価値観の浄化、争い

マルセイユ版独自の読み方

マルセイユ版には「視線の方向(ルガール)」を重視する独自の読み方があります。カードに描かれた人物や動物が向いている方向が、隣のカードとの関係性を示すという技法です。

  • 右を向いている: 未来に向かっている、次のカードに注意を向けている
  • 左を向いている: 過去を振り返っている、前のカードに影響されている
  • 正面を向いている: 質問者に直接語りかけている

実践での活用法

マルセイユ版でのリーディング方法

リーディングライダー=ウェイト版とは異なるアプローチが求められます。

おすすめの学習ステップ:

  1. まず大アルカナ22枚のみでリーディングを練習する
  2. 各数字(1〜10)の数秘術的意味を暗記する
  3. 四大元素の性質を体感的に理解する
  4. 小アルカナを加えたフルデッキでの練習に移行する
  5. 「視線の方向」の読み方を取り入れる

逆位置の扱い

マルセイユ版の伝統的な読み方では、逆位置を使わない流派があります。カードの向きではなく、周囲のカードとの関係性(視線の方向、元素の相性、数字の流れ)で意味のニュアンスを読み取るアプローチです。

タロット瞑想

マルセイユ版のシンプルなデザインは、カード瞑想に最適です。一枚のカードを長時間見つめ、その象徴が語りかけてくるメッセージを受け取る瞑想法は、直感力の開発に効果的です。

関連する概念との違い・比較

デッキ時代小アルカナ数札理論的基盤特徴
マルセイユ版17〜18世紀シンボルのみフランスのオカルティスト伝統的・素朴・力強い
ライダー=ウェイト版1909年場面イラストありゴールデンドーン初心者に読みやすい
トート・タロット1938〜43年制作抽象的デザインセレマ魔術上級者向け・神秘的
ヴィスコンティ版15世紀手描き・一品物なし(遊戯用)最古のタロット

よくある質問

マルセイユ版は初心者に向いていますか?

小アルカナの数札にイラストがないため、一般的にはライダー=ウェイト版の方が初心者には取り組みやすいとされています。ただし、「最初からマルセイユ版で学ぶことで、象徴と数の本質的な理解が身につく」という考え方もあります。絵に頼らない分、数秘術四大元素の知識が自然と深まるメリットがあります。

マルセイユ版タロットにはどのような種類がありますか?

歴史的にはジャン・ノブレ版、ジャン・ドダル版、ニコラ・コンヴェル版が三大マルセイユ版とされます。現代の復刻版としては、ジョドロフスキー=カモワン版(2015年)、CBD(Convos Ben Dov)版、エリック・ゴンザレス版などが入手しやすく人気があります。

マルセイユ版とライダー=ウェイト版、どちらが「正しい」タロットですか?

どちらも正統なタロットの伝統に属しており、「正しい」「正しくない」の問題ではありません。マルセイユ版はより古い伝統を受け継ぎ、ライダー=ウェイト版ゴールデンドーンの体系を取り入れた近代的解釈です。自分の学習スタイルや直感に合うデッキを選ぶことが大切です。

マルセイユ版で逆位置は使いますか?

流派によります。伝統的なマルセイユ版の読み方では逆位置を使わない場合もあります。カードの向きではなく、周囲のカードとの関係性(視線の方向、元素バランス、数の流れ)で解釈のニュアンスを変えるアプローチが、マルセイユ版の伝統的な手法です。現代のマルセイユ版リーダーの中には逆位置を採用する人もおり、厳密なルールはありません。

マルセイユ版のカード名が一般的な名前と違うのはなぜですか?

マルセイユ版はフランスで発展したため、カード名がフランス語で表記されています。英語名とは異なる場合があり、例えばThe MagicianはLE BATELEUR(手品師)、The High PriestessはLA PAPESSE(女教皇)と表記されます。また、13番のカード(死神)には伝統的に名前が記されないという独特の慣習があります。

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