ゔぃすこんてぃ・すふぉるつぁ
ヴィスコンティ・スフォルツァ版は15世紀イタリアで制作された現存する最古級のタロットカードです。金箔を用いた豪華な手描きの芸術作品です。
ヴィスコンティ=スフォルツァ版タロット(Visconti-Sforza Tarot)は、15世紀中頃にイタリアのミラノで制作された、現存する最古のタロットデッキです。ヴィスコンティ家とスフォルツァ家の宮廷で使われた豪華な手描きのカードであり、タロットの歴史の起源を知る上で最も重要な歴史的資料です。
金箔を背景に使い、鮮やかな顔料で精緻に描かれたこれらのカードは、単なるゲーム用具を超えた芸術作品であり、ルネサンス期イタリアの宮廷文化を今に伝える貴重な文化遺産でもあります。タロットが「神秘的な古代の知恵」ではなく、「15世紀イタリアの宮廷文化から生まれた遊戯」であることを証明する最も重要な物的証拠です。
現代のタロット実践者にとって、ヴィスコンティ=スフォルツァ版は「すべてのタロットの始まり」として敬意を込めて参照される存在であり、復刻版を通じて実際にそのエネルギーに触れることができます。
カードゲーム自体は中国が起源とされ、イスラム世界を経由して13〜14世紀にヨーロッパに伝わりました。マムルーク朝(エジプト)の「マムルーク・カード」は棒、貨幣、剣、杯の4つのスートを持ち、これが後のタロットと通常のトランプの基礎となりました。
1440年代、北イタリアの宮廷で、通常の遊戯用カード(ナイビ)に「トリオンフィ(勝利)」と呼ばれる切り札カードを加えた新しいゲームが考案されました。この切り札カードが後の大アルカナの原型です。
「トリオンフィ」の名称は、ルネサンス期の詩人ペトラルカの詩集『トリオンフィ(凱旋)』に由来するとされ、カードの図像にはペトラルカが描いた「愛の凱旋」「貞節の凱旋」「死の凱旋」「名声の凱旋」「時の凱旋」「永遠の凱旋」のテーマが反映されていると考えられています。
ミラノを支配していたヴィスコンティ家は、北イタリア最大の有力貴族であり、芸術と学問のパトロンとして知られていました。最後のヴィスコンティ公フィリッポ・マリーア(在位1412〜1447年)は特にカードゲームを愛好し、自身のためにタロットカードの制作を命じたとされます。
1450年、傭兵隊長フランチェスコ・スフォルツァがヴィスコンティ家の娘ビアンカ・マリーアと結婚してミラノ公を継承し、スフォルツァ家がタロット制作を引き継ぎました。現存するカードの多くは、この二つの家門が交差する時期に制作されたものです。
主な制作者はクレモナ出身の画家ボニファチオ・ベンボ(1420頃〜1480頃)とされています。ベンボはヴィスコンティ家とスフォルツァ家の宮廷画家として活動し、フレスコ画や祭壇画も手がけた一流の画家でした。一部のカードは別の画家によるものとも考えられていますが、全体の芸術的統一感は高く保たれています。
ヴィスコンティ=スフォルツァ版は、1440〜1450年頃にミラノ公のために制作されたタロットカードの総称です。複数の異なるデッキが現存しており、いずれも金箔を使った精緻な細密画(ミニアチュール)で描かれています。当時はカードゲーム「トリオンフィ」に使用され、占いの目的ではありませんでした。
ヴィスコンティ=スフォルツァ版として知られるデッキは、実際には複数の異なるセットの総称です。
| デッキ名 | 現存枚数 | 所蔵場所 | 年代(推定) | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ピアモンテ=モルガン版 | 約74枚 | モルガン図書館(NY)、アカデミア・カラーラ(ベルガモ)他 | 1451年頃 | 最も有名。ベンボの代表作 |
| ブレラ=ブランビラ版 | 48枚 | ブレラ絵画館(ミラノ) | 1442〜1445年頃 | ヴィスコンティ家の紋章が多い |
| カリー=イェール版 | 67枚 | バイネケ稀覯本図書館(イェール大学) | 1466年頃 | 独自のカード(信仰、希望、慈愛)を含む |
現代のタロット(78枚=大アルカナ22枚+小アルカナ56枚)とはいくつかの違いがあります。
| 要素 | ヴィスコンティ=スフォルツァ版 | 現代の標準 |
|---|---|---|
| 大アルカナ枚数 | 不確定(一部欠損) | 22枚 |
| 番号の記載 | なし | あり(0〜XXI) |
| 「悪魔」「塔」 | 一部のデッキでは欠損 | 常に含まれる |
| コートカード | 国王・女王・騎士・小姓 | キング・クイーン・ナイト・ペイジ |
| スートの名称 | バストーニ・スパーデ・コッペ・デナリ | ワンド・ソード・カップ・ペンタクル |
| 用途 | カードゲーム | 占い・自己探求 |
ピアモンテ=モルガン版では「悪魔」と「塔」に相当するカードが見つかっていません。これが当初から制作されなかったのか、後年に失われたのかは議論が続いています。
「制作されなかった」とする説は、当時のキリスト教的感覚で悪魔や崩壊の図像が忌避された可能性を指摘します。「失われた」とする説は、他のデッキ(カリー=イェール版など)には類似のカードがあることを根拠とします。
ヴィスコンティ=スフォルツァ版の大アルカナの図像は、ルネサンス期のイタリアの宗教観・道徳観・宇宙観を反映しています。
これらの図像は、後のマルセイユ版やライダー=ウェイト版に引き継がれ、約600年にわたって変容しながらも基本的な構造を保っています。
現在はいくつかの復刻版が市販されています。復刻版を使ってリーディングを行うことは可能ですが、以下の点に注意が必要です。
ヴィスコンティ=スフォルツァ版を現代のデッキと比較することで、タロットの図像がどのように進化してきたかを学ぶことができます。
例えば、「力」のカードを比較すると:
この変遷は、「力」の概念が「物理的な力」から「内面の強さ」へと進化していった過程を示しています。
| デッキ | 時代 | 制作方法 | 用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| ヴィスコンティ=スフォルツァ版 | 15世紀 | 手描き・一品物 | カードゲーム | 最古のタロット。金箔の芸術品 |
| マルセイユ版 | 17〜18世紀 | 木版印刷・大量生産 | ゲーム→占い | 標準デザインの確立 |
| ライダー=ウェイト版 | 1909年 | 近代印刷 | 占い・自己探求 | 小アルカナにイラスト追加 |
| トート・タロット | 1938〜43年 | 近代印刷 | 魔術・占い | セレマ哲学の反映 |
| ソラ・ブスカ版 | 1491年頃 | 手描き→銅版画 | 不明 | 小アルカナにイラストがある最古のデッキ |
復刻版を使ってリーディングを行うことは可能です。ただし、一部のカードが欠けているデッキもあるため、補完カードが追加された復刻版を選ぶか、欠損カードなしのリーディング方法を採用する必要があります。歴史的・芸術的鑑賞を主目的としつつ、特別なリーディングに使うという実践者が多いです。
ミラノを支配していたヴィスコンティ家とスフォルツァ家の両家の名前に由来しています。ヴィスコンティ家の時代に制作が始まり、フランチェスコ・スフォルツァがヴィスコンティ家の娘と結婚してミラノ公を継いだ後も制作が続いたため、両家の名前が冠されています。
複数の美術館に分散して所蔵されています。主な所蔵先:
学術的には15世紀のイタリアが起源であるという見解が定説です。かつて18世紀にクール・ド・ジェブランが唱えたエジプト起源説や、古代の神秘的な起源を主張する説がありましたが、ヴィスコンティ=スフォルツァ版をはじめとする歴史的資料は、タロットがイタリアの宮廷文化から生まれた遊戯であることを明確に示しています。
文献記録としてはあります。1440年代以前にも「トリオンフィ」への言及がイタリアの宮廷記録に残っていますが、カード自体は現存していません。ヴィスコンティ=スフォルツァ版は「現存する最古のタロット」であり、「史上最初のタロット」とは断言できません。ただし、タロットの原型を知る上で最も古く、最も重要な物的証拠であることは間違いありません。